第23章 本領
「華っ!!」
「待って!行っちゃダメ!!」
天使となずなが声を重ねて制止してくるが、来栖は止まらなかった。
ずっとずっと助けてくれたあの時の記憶を頼りにほとんど手がかりがない中探した。
それがやっと報われる思いでその胸に飛び込む。
体の紋様が濃くなって戻っていくのにも気づかない。
「私ね、ずっと恵のことを」
グッときつく抱き寄せられた瞬間、右の二の腕が押し潰されたような重い衝撃を受けた。
続けて頬に飛んできたのは赤く鉄臭い液体、そしてあまりの激痛に息ができない。
今、何が……?
彼の頭部が異様に肥大化して、
腕に噛みつかれて……?
目を向けると噛まれた箇所が血に濡れ、そこから先がなくなっていた。
「つくづく人間だな」
口元に血を付けた宿儺は薄く嗤うと来栖を無造作に地上へ投げ捨てた。
少し間を置いてグチャという生々しい衝突音が聞こえてくる。
ああ、そんな……
来栖さんまで……
なずなは膝から力が抜けて座り込んでしまう。
……宿儺をどうにかしないと。
これ以上、恵くんの手を汚させるなんて堪えられない。
でも、宿儺を拘束できる手段が私にはない。
交渉なんてもっての外。
天使さんも受肉したものを元に戻すのは至難だと言っていた。
さっき来栖さんが天使さんと術式を使った時、宿儺は恵くんの身体ごと灼かれた。
つまりもし天使さんの術式で宿儺を消すことができても、恵くんは全身大火傷を負った状態になる。
そこから回復するかが元に戻せるか、死んでしまうかの分岐点、天使さんが九割九分死ぬと言っていたことなんだ。
しかも来栖さんがあんな状態になってしまってはこの選択に懸けることもできない。
……じゃあ、本当に恵くんを殺すしかないの?
鬼切を握る手が震え、ちっとも身体は動かない。