第23章 本領
なずなは宿儺に駆け寄ろうとする来栖の腕を捕まえてなんとか押し留めようとした。
あれは絶対に違う。
宿儺が恵くんのように振る舞っているだけ。
確かに纏っている呪力には先程までの禍々しさはなく、その顔や光に灼かれて露わになった上半身に浮かぶ不気味な紋様は消えかけている。
外見や気配は伏黒に戻っていると言われてもおかしくはない。
でも違う。
なずなとしてもどこがどう違うのかと聞かれると返答に困るのだが、とにかく違うのだ。
来栖さん、気づいて!
あれはいつも迷子になっている私を見つけてくれて、あの雨の日に抱きしめてくれて、無茶した私を助けて諌めてくれた恵くんじゃない……!
しかし、
「離してください!恵は戻ったんです。それに私のことを思い出してくれた」
ずっと探して、
やっと見つけて、初めて名前を知って……
けれど恵は私のことを覚えていなくて、
それどころか恋人までいた。
嫌だった。
なんで私ではないの?
私だってあなたの隣にいたい。
そのために今まで人助けを続けてきたのに。
でもそんな醜い本心を恵に見せたくはなかった。
だからこそ思い出してくれたこと、名前を呼んでくれたことが何より嬉しかった。
今だって両手を広げて、まるで私を待っててくれているみたいに……!
その想いが原動力となり、来栖は掴まれた手を振り払って駆けていく。