第23章 本領
だが来栖本人も戸惑いが隠せなかった。
津美紀に受肉した万を追いかけ始めてすぐに気を失い、目が覚めたら万の姿も虎杖の姿もない。
その上、禍々しい呪力を立ち昇らせる伏黒の顔には不気味な紋様。
自分と共生している天使から術式を使うよう急かされ、訳が分からないまま術式を使ったら目に見えて伏黒にダメージが入ったため、発動し続けることをためらってしまう。
「天使、待って!恵が!恵が!!」
天使は狼狽する来栖に強く言い聞かせる。
「こうなってはどうしようもない。奴だ、奴が堕天なんだ!」
「!!」
来栖は言葉を失った。
無論堕天のことはかねてから聞いていた。
この儀式に参加したのだって天使からその目的を共有されていたからだ。
そして、一度受肉した人間を元に戻すのは不可能に近いことも。
……じゃあ恵は?
ああなってはもう手遅れだと言うの?
「堕天がより強く根を下ろす前に彼から剥がし、消し去る。賭けるしかないんだ!もう……!」
唇を噛んで肩を震わせる来栖に天使が声をかけ続ける。
その声には悔しさが滲み出ていた。
同時にまだ希望は潰えていないことを悟る。
たとえ、奇跡の糸を手繰り寄せなければ掴めない希望だとしても……
恵の身体を堕天の好きにはさせない!!