第23章 本領
「小娘、オマエは伏黒恵に懸想していたようだな?」
「っ!」
器となっている伏黒の記憶を読み取った宿儺は、息を詰まらせたなずなの反応を見て紅い眼を細めた。
「愛する男の手に掛かる気分はどうだ?」
頭を鷲掴みにしていた手を離すと、なずなの細い首に舐めるように手を回し、じわじわと絞め上げる。
「っ、オマエは、恵くんじゃ、ないっ」
首を絞められながらもなずなは宿儺を睨んだ。
狭まる気道に息ができず、目尻に涙が滲む。
すると、何故か一瞬だけ首を絞める力が緩んだ。
その一瞬の隙をついてなずなは宿儺の拘束から抜け出す。
「ケホッ、ケホッ、領域、展開……」
呼吸を整える前に鬼切に指を当てる。
だが……
「伏黒恵を切り捨てるのか。いいぞ、好きなだけ領域を使うがいい」
その言葉になずなの手が止まった。
苦悩に歪む顔を見た宿儺がケヒッと嗤う。
「オマエのような虫にそんな芸当はできまい。たとえ己の身に危険が及ぼうともな」
影が差したと思ったら、なずなの目の前に大きな手が迫っていた。
避けることもできずに顔面を掴まれ、後頭部を床面に叩きつけられる。
続け様に踏みつけにしようと脚を上げた宿儺だったが、何かに気づいて途中で止めた。
すぐになずなも気づく。
高羽の気配が近づいてくることに。
気配はないが、真希も先程の音に気づいてこちらに急行しているだろう。
「……いつの時代もどこからともなく虫は湧く」
宿儺は徐に両手を重ね、影絵を作る。
「鵺」
ビルの屋上に周囲の建物を丸ごと覆えそうな程の巨大な怪鳥が現れた。
面の外れた顔は目玉が大きく張り出した獅子、巨体を支える脚は大樹のように太く、長く伸びた爬虫類を思わせる尾。
違う、
こんなの違う、
……八十八橋で私を羽毛で包んでくれた鵺じゃない。
なずなの知る伏黒の鵺とはまるで異なる姿に瞠目していると、閃光と轟音が走った。
鵺が周囲一帯に無数の雷撃を落としたのだ。