第23章 本領
しかし、
『契闊(ケイカツ)』
何の前触れもなく虎杖の右頬に現れた宿儺の口が唱えた。
その瞬間、虎杖の意識が一気に沈む。
―死んでる時、宿儺と何か話したかい?心臓を治すにあたって何か条件とか契約を持ちかけられなかった?―
―ん?ああ、何か話した気はするけど……思い出せないんだよなぁ―
そう、虎杖自身は忘れていたある縛り。
―事情が変わったのだ。近い内、面白いものが見れるぞ―
―条件は2つ。1、俺が「契闊」と唱えたら1分間体を明け渡すこと。2、この約束を忘れること―
英集少年院で心臓を抜き取られた虎杖に対して、その心臓を治すことと引き換えに提示した条件。
それが今この瞬間に履行された。
ドクンッ
なずなが虎杖と来栖を追いかけようと足を踏み出した途端、鬼切が強烈に脈打った。
何が起こったのか頭で理解する前に反射的に鬼切を抜いて構える。
この感覚は……!!
まさか、と思った直後、先行していた来栖が崩れ落ちた。
背後を取る形で虎杖が彼女を気絶させたように見えた。
「おっと」
落下した来栖がビルの屋上に叩きつけられる前に抱き留めた虎杖の口から発せられた声はなずなの知る虎杖の声ではない。
だが、知っている声だ。
ぶわりと全身の皮膚が粟立つ。
なずながその声を聞いたのは一度きり。
たった一度でも決して忘れることはない。