第6章 12年目の真実
「わたし、呪術師だか、ら……。そういう生業でしょ、命をかけて守る、後悔のない死なんかない仕事」
未亜の言葉はしばしの沈黙を生んだ。外から風が強く舞い込み、ガタガタガタと窓の木枠が揺れる音が響き渡る。
目隠しをしているのではっきりとは見えないのだが、五条は、目を見開いたような眉間が上がるような動きを見せて未亜の方に視線を向けた。
そのまま五条は何か言葉を言いかけたが、結局それは声にはならず口を閉じると、今度は穏やかで柔らかな笑みを浮かべ、再びその口を開いた。
「そうだったな」
そういいながら、五条は教卓からゆっくりと未亜の座っている方に向かって歩いてくる。
そのまま椅子の後ろ側に回りこむと、軽く屈んで、座っている未亜を後ろからぎゅーっと抱きしめた。
「相当鈍ってるだろうから、鍛えてやるよ、学生んときみたいにな。――――おかえり、未亜」
どこか懐かしい話し方だった。いつものちょっとハイテンションな五条悟じゃなく、ヤンチャで口の悪い五条悟。
肩は寒さで震えてるのに、頬と耳がわずかに赤く染まって立っている……そんな姿を思い出した。
――好きになった
あの日の彼が、薔薇の花束をくれた4年半前の彼に変わり、今ここにいる彼へと移り変わっていく。
「もう逃げんなよー……ま、僕が逃がさないし絶対離さないけどね」
抱きしめるその大きな身体はすっぽりと未亜を包み込み、その体温でほんのりと身体が火照ってくる。
すぐ右斜め後ろにその端正な鼻筋がわずかに見え、少しそちらに視線を向けるとこめかみが彼の額にこつんとぶつかった。
思わずくすっと笑みがこぼれる。
五条は右手で彼女の頬を固定すると顎をくいっと持ち上げて、自分の唇に寄せた。
2人が出会い、学んだ場所で、12年前の青き日と変わらない光とそよ風を受けながら、五条と未亜は新しいスタートをきったのだった。