第6章 12年目の真実
屋号に唐花桐を用いた炭黒の大暖簾をくぐり、数寄屋造りの長い廊下を進んでいく。
カコーン……カコーン
しばらくすると、一定のリズムで、竹筒が石を打つ音が静寂の中に響き渡る。
手入れの行き届いた日本庭園を横目に、五条と未亜は奥へと進んだ。
突き当たりにある角部屋は完全個室制と思われ、他の和室とは少し離れたところにポツリと存在していた。
他の客と顔を合わせないような配慮が感じられる。
和室の障子に差し込む月の光を、影で遮らないよう注意しながら2人は静かに近づいた。
「ようやく決着が着きますなぁ。実に長かった。今宵は酒が旨い」
『まだ美酒を味わうには気が早いだろ、肝心のブツは上がってきたのか?』
「術師の遺体は呪いに転じないように適切な処理をする必要がありますからね。いったん高専にでも持ち帰ってるんでしょう。なあに、心配いりませんよ、領域展開してるんですよ、クックックッ、殺し合い以外に道はありません」
2人の男の話し声が聞こえた。ひとりは間違いなく刈谷だ。やたら甲高い声が耳につく。もうひとりは……誰だろう?
しわがれて潰れかかってる声に未亜は心当たりがなかった。
ここに来るまでの道中で、五条は未亜に、電話で呼び出されて向かった先にいたのは刈谷ひとりだけだったか? と聞いた。
そうだと答えると、五条はどこまでもドブネズミはドブから姿を現さねぇって事だな、と独り言のような言葉を発していた。
ドブネズミ――今、ここで会話しているもうひとりの男がそれなんだろうか?
「ラボの件も宿儺の器を始末しようとした件も裏取引もすべて一条未亜が一枚、噛んでますからね。上層部からの命令を受けた形で、五条悟が一条未亜の死刑任務を遂行し、直接私のところに報告しに来たりしたら、グフ、グハァ、フハハハハ笑いが止まらんくなりそうですよ」
「――じゃあ、思う存分笑ってもらおうか。あの世でな!」