第5章 恋情と嘘
急に強く抱きしめられて未亜は心臓が跳ねた。この数十秒の出来事がまだ頭に落とし込めていない。
好きって言った? それで今抱きしめられてる? そんな展開がくると思わず、ただなすがままに抱きしめられていた。
今、言わなきゃいつ言うんだろう。10年間ずっと言えなかった言葉。伝えれなかった思い。
怖くて逃げていただけの自分は、きっとそれが出来なかったから形成されてしまったんだ。
この人はこんなにもいつもちゃんと伝えてくれるのに、全然できていなかった。
すべての後悔と反省が、五条の温もりの中で溶かされていく。
「あり、が、とう。あ、のずっと言いたくて言えなかったんだけど、私も悟が好き、大好き――12年前からずっと」
五条に急に抱きしめられて、だらりと伸ばされていたその腕をゆっくりと彼の背中に回し、未亜もまた12年分の思いを乗せて抱きしめた。
◇
「ひゃ、あ、あの、あのぉ」
ひきつった雄叫びのような悲鳴のような声が聞こえて未亜と五条は抱擁を解いた。
声が聞こえた方を見ると伊地知が困惑した様子で手を擦り合わせている。
そりゃそうだ。領域展開が解かれたと思ったら、中から仲睦まじく抱き合った男女が出てきたのだから無理もない。
こんな光景は過去にも先にもそう見れるものではないだろう。
「さーて、本当の黒幕を拝みにいきますか」
「え? 五条さん、今からですか?」
「もちろん。君はそのためにここにいたんでしょ? 僕たちのキスシーンでも見たかったわけ?」
「ひい、や。そういうことでは。す、すみません、今すぐ車を正面にまわします!」
いつもこんな調子なんだろうか? 伊地知が少しかわいそうになったが、一緒においでと言われ、五条と車に乗り込み、黒幕がいる場所へと向かった。