第5章 恋情と嘘
「え? ……うーん、まぁそれもあるけど、本当の理由はもっと別のところにあるかな」
さっきまでひょうひょうと話していたのに、少し言葉に詰まったようだった。五条は腕を組んで顎に指をおくと軽く空を仰いでいる。
別にジェットコースターのような恋の急展開を期待したわけではない。何年も会ってなくて変な別れ方をして急に現れたかと思えば敵だった。
そんな相手に感情の入れ込みようなんかないのが普通だ。
前に再会した時のようなデートやふと心が躍るような会話をしたわけでもない。むしろ怒らせて傷つけただけ。
悟にとっては女を抱くなんて珍しいことでもなんでもないだろうし、夜を共にすることに特になんの感情もなかっただろう。
しばらく待ってみるが一向に返答がこない。
傷つけまいと言葉を考えてくれてるんだとしたら、逆に申し訳なかったな、と自分のデリカシーのなさを後悔した。
あー、もういいよ、察したから、と言おうと口を開けようとしたとき、五条はちゃんと聞けよーと未亜の肩に手を置き目を覗き込んできた。
悟の目の奥に広がる空のようなブルーの中に未亜の姿が映りこんでいる。
何度もこの目を見てきたが、その中に緊張の色が見えたのは初めてだった。言おうとして五条がためらっているのがわかる。
「未亜はさぁ、すごい強いのに、すげぇー弱いの」
「な、に? 言ってる意味が……わかんない」
「術師としては特級レベルの強さなのに、そうやってぜっんぶ1人で抱えて全部ひとりで何とかしようとするとこ、あまりに脆くて守ってやりたくてどうしようもなくなるんだよね。……僕に殺されるための計画を必死で実行しようとしてる未亜を見たら、あの夜は言えなかったんだ。
それは……
昔も今も変わらず君が好きってことだよ」
肩に置かれた手がそのままゆっくり背中から腰にまわった。五条は腰を引き寄せて未亜を胸元に抱き寄せたかと思うと、ぎゅっと強く抱きしめた。
まるで12年分の重りがすべてそこにのしかかったんじゃないかと思うほどの強さだった。