第5章 恋情と嘘
「何でだと思う?」
先生が生徒に自分で考えさせるかのように、五条は直接答えを言わず未亜のへその下あたりを指で触れた。
「……ぁ」
「お勉強は大事って話」
口を手で覆いながら未亜は2日前の夜のことを思い出していた。体を何度も重ね合わせて朝まで過ごしたあの日のことを。
基礎生物学と免疫抗体の原理からしたらとても理にかなった話だ。自分の体のことは細胞分子の核レベルまで把握できている。
司っている体内の組織の中に自分とは違う遺伝子だけど、存在しているものが確かにあった。
それは自分の中に異物としてではなく共存として受け入れられている悟の遺伝子のもと。
”自”と”他”を判別する術式を用いてきた中でも”共存”がどうなるのかは未知数だったが、生殖本能から考えてこの細胞が攻撃対象になるとは考えにくい……。
悟の生殖細胞が私の中に入ってきて体はそれを受け入れた。今、悟は攻撃対象にはならない私の一部なのだ。
学術的で、どちらかといえば、五条のその発想に驚愕するべきところなのだが、無性に恥ずかしくなった。
体内にこんなにたくさん残っていればそりゃ、領域展開も効かないはずだ。
涙が渇いたあとの頬は真っ赤っかだ。五条を見るのもはばかられるくらいの恥ずかしさが全身を覆う。
「……っていうかさ、僕が、何も知らないで今日ここにきたと思う? ほんとに未亜がK2の主犯格だと僕が思ったと思う?
君が僕に殺されなきゃいけない状況になっていることは最近つかんだんだけど、君には見張りがついていたからね。
安易に僕が手を差し伸べれば、琴さんが危ないだろ? それでぎりぎりまで計画通りに事が運んでいると油断させて一網打尽にしようと思ったんだ。
君が領域展開をしたことは見張りのやつらがK2に連絡いれてるはず。僕と君が殺し合いになってると今ごろ大喜びだろうよ。
七海に頼んどいたから、見張りは今頃締め上げられてどっかに連行されてると思うけどねー。
監禁場所も特定出来たし間もなく琴さんも救出されると思うよ」
未亜は一気に気が抜けたのと同時に、五条が生きている事への安堵の気持ちで脱力した。