第5章 恋情と嘘
もうひとつ違和感を感じた。必中必殺の技なのにまるで効いている感じがしない。呪力量の問題? もしや私はもう無量空処の中なのだろうか? 情報を無限に与えられてわけがわからない状態になっているのだろうか?
呪力を大量に消費するこの技の中で、未亜は冷静に頭が回らなくなってきた。がしかしやはり自分の領域展開は破られてはいない、それだけは認識できた。
おそらく五条悟だからだ。普通の術師と違ってすぐには効果が出ないんだ。でも時間の問題。これ以上何もしなかったら悟の中枢神経が破壊され死んでしまう。その前に無量空処しないと手遅れになる。
――はやく! 早く無量空処で領域押し返してよ。何してるの? 死んじゃうよ。
予想外の状況が起きて未亜は混乱した。目隠しを外して領域展開と唱えるのかと思ったのに、ただ何もせずにこちらに向かって歩いてくるのだ。
嫌! 目の前で悟が朽ちるのを見るのなんて望んでない。どうするつもりでいるの? どうしたいの? なんで攻撃してこないの?
あまりに大量の感情と情報を脳で処理しているうちに涙が溢れ出そうになっていた。頬の上に一筋伝ってポツッと地面に落ちたあと、続けてポタリ、ポタリと雫がおちていく。
なんで? なんで?
五条は目の前まで後3歩という距離に近づいている。すぐそこにいる悟が死ぬと思ったら心が粉々になりそうだった。
「悟、なにやってるの? 領域展開してよ! はやく、はやく無量空処発動してよ。ねぇ、お願い……お願いだから―――死んじゃう」
「あーあ、なに泣いてんの? 言ってる事とやってる事が辻褄あってないよ。君は僕を殺そうとしてるんじゃないの?」
悟は未亜とは対照的に取り乱す様子もなく、目の前で止まると微笑を浮かべた。
そのまま視線を未亜の高さに合わせると優しく未亜の頬に手を触れ、親指でその頬を伝う涙を拭った。まるで先生が生徒をなだめるみたいに。
未亜は確かに領域の中に悟を取り込んだ。だが、その術中効果はゼロに等しかった。
頬に置かれた悟の手から自分よりもあたたかい体温が伝わり、悟は生きているんだと信号を感じ取ると、ようやくその事実が解となって表れた。
悟には華滅焚壊怨は効かない。
「な、んで? 効いてない、効いてないの? なんで効かないの?」