第5章 恋情と嘘
意地悪やわかりにくい嫉妬ばっかりしてないで、ちゃんと捕まえて、幸せにしてあげて……。
さよなら、悟。
心の中で伝わらない言葉を懸命につぶやいた。
そして呪力量を最大に上げる。
「領域展開 華滅焚壊怨」
未亜は最愛の人に術式を放った。もう後にはひけない。領域展開は必ず領域内の対象物にヒットする呪術戦闘の最高峰ともいえる必殺必中の技だ。
今までどんな呪詛師も呪霊も華滅焚壊怨(げっめつふんかいえん)の中で祓えなかった者はいない。自分と異なる遺伝子、細胞を壊滅させる術式なのだ。
未亜と五条の周囲に華滅焚壊怨の翠色の結界が広がっていく。
ミトコンドリアが一面に敷き詰められた未亜の体細胞の核が具現化された領域だ。
もちろん五条はこれまで入った事はない。
五条はゆっくり目隠しを外した。無量空処するしかないよね。じゃないと、悟の細胞が破壊される。
これで計画はすべて終わり。役目もおわり。バイバイ……
未亜の視界がぼんやりぼやけてきた。こんなぎりぎりまで目に水分は補給されるらしい。
無量空処ってどんな感じなの? と五条に質問したことがある。うーん濃紺なブラックホールみたいな感じ。そう答えてくれたのを思い出した。
宇宙みたいなところなのかなぁ、何か聞こえるのかなぁ……。
未亜はその時を待った。
が、一向に五条は領域展開する気配がない。景色はずっと360度翠色のドーム型のままだ。
――何してるの? どうして領域展開してこないの?
悟はこの戦い方を知らないのじゃないか? とすら未亜は思った。
そんなわけない。これまであまたの特級呪霊を無量空処で祓ってきているはずだ。
領域展開されてやり返したことだってあるだろう。より洗練された領域展開の方が勝つ。そんなこと高専の1年生だって知っている。
悟はゆっくりこちらに近づいてきた。