第5章 恋情と嘘
ふと振り返ると、赫と蒼が混合した大きな光が全身を包んだ。
「茈」
爆発音のような大きな破裂音が鳴り、地面全体が抉られる。周りの木々は全て吹き飛ばされている。
まるで隕石でも落ちたんじゃないかというくらいの破壊力だ。
まともに茈をくらった……。骸空はおそらく近い場所で急所をやられたので祓われただろう。
茈を受けて、体中がマグマで溶かされたような灼熱の痛みと、それとは逆に凍らせた刃物で滅多刺しに引き裂かれたような痛みが走る。
死ぬ方がマシなんじゃないかと思うほどの激痛。
でも、やっぱり未亜は死ななかった。
想定はしていたものの、実際に体感すると自分のことでも恐ろしくなる。おそらく普通の人の目には、無下限呪術のように攻撃があたっていないように見えるだろう。
だが、それは違う。当たっているし、痛みも感じる。スーパースローモーションカメラで見れば少しは映るだろうか?
茈を受けた体は、瞬く間に未亜の魂の元に集結してくる。
体内の細胞の結束が堅く、例えて言うならゴムを引っ張れば引っ張るほど元に戻ろうとする力が強く働くような感じ。その間わずか0.0001秒にも満たないスピードだ。
脳細胞がいちばんはやく魂に集結し、その後揃った部位から驚異的な反転術式で神経や傷が回復する。体力面でダメージはあるが、肉体的には問題ない。
このまま攻撃を受け続けても呪力量は奪われるが反転術式が回る限りおそらく簡単に死には至らない。
がしかし、今回の目的は死なないことではない。五条に殺されなければいけないのだ。五条に無量空処をさせなくてはいけない。
領域展開をやるなら呪力が十分に残ってる今だ。未亜はそう判断した。
五条は未亜が茈で死ななかった事は、さほど驚いていない様子で、どちらかというと苛立ちを募らせているようだった。
無害だと思っていた人物から急に攻撃されたのだから無理はないだろう。
これで未亜の考えるすべての条件は出揃った。苛立ってくれる方がありがたい。
「なぁ、おい、これ何の冗談? ふざけるにしては程度がすぎてんじゃないの? ちゃんと話し合おうぜ」
五条の問いかけに一度も未亜は返答しなかった。会話して気持ちがブレるのが怖いからだ。実行出来なくなっては困るからだ。