第5章 恋情と嘘
濡れた唇を重ねるぴちゃという水音が響く中、未亜の腕は自然に五条の背に回り、そのままぎゅうっと彼の背中を抱きしめていた。
どれくらいキスをしていただろう? ふいに五条の顔が離れた。
「……逃げなくて、いいの?」
ポツリと漏れ出たような声だった。無限に広がる空の中に浮かんでいるような彼の眼光がかすかに揺れ動いている。
ほんの僅かなカケラほどの迷いと、それとは真逆の欲する2つの感情を彼の中に感じた。
――逃げる、か。未亜がこれまで五条と関わってきたその先に最終的におちていく結末。もうこれ以上、逃げたくはなかった。
ううん、違う、この気持ちはそんなんじゃない。……このまま、五条悟に抱かれたかった。
なぜこんな展開になったのかはわからないし、彼の真意も測れない。でも五条は劣情に任せてこうしているわけじゃないような気がした。
そして、何よりも、ただ彼の腕の中で、これまで閉じ込めてきた感情も後悔も、やらなきゃいけない計画も全て忘れて溺れたかった。
彼の温かな体温で身体を狂おしいほど火照らせて、そのぬくもりに包まれたかった。
「……逃げなくていいの?」
五条の言葉に未亜はこくりと頷いた。
そこからは、ただ夢中になって求め、求められ、頭の中が真っ白になって、五条を抱きしめ咽びながら何度も体を重ねたような気がする。
「まだ欲しい?」
「……うん」
身体はあまりにも正直だった。その先は……意識が朦朧としてあまり覚えてない。
呆然とベッドに座りながら隣を見るとまだ五条は夢の中のようだった。
未亜は五条を起こしてどういうことか確認したかったけれど、どうもこうも大人同士が同意の上でそうなったわけで、無理やり犯されたわけではない。
最後までよく覚えていない事を問い詰めるのも無粋な話だと尋ねるのをやめた。