第5章 恋情と嘘
ラボでは、いわば"使い捨て呪霊"を製造していた。同じ呪霊を使うと、術師の足がつきやすいのでその都度祓い、殺戮の痕跡を完全に消す算段のようだ。
工場は小さいながらも本格的だ。並の資金力ではこんなものは作れない。五条は上層部の中から該当しそうな人間を頭の中でリストアップしていく。
別の部屋を見ると、天井の隅には壁穴があり、工場の外と中を太いパイプでつながれていた。
着地点は水槽のような容器だ。カプカプと空気の泡のような音が聞こえてくるが、どうやらこれが負の感情らしい。
負の感情が容器に一定量たまったところで特殊な試薬を加える。
すると、負の感情が折り重なり呪霊化する、といった一連の工程が出来上がっていた。
五条達が観察を終える頃、中にいた見張りが2人に気が付く。
「侵入者だ!」
サイレンと共に大きな声があがった。
◇
ラボの中には呪霊を管理している呪詛師が1名、逃げきれずに残っていた。
あの見張りを突破してくるとは只者じゃねえ……。
呪詛師はどうしようか頭を巡らせていた。
突然、目の前に白髪で目隠しをしたデカイ男が現れた。高専の制服を着ている。呪術師に違いない。
慌てた呪詛師はラボに保管していた呪霊100体を一気に解き放った。いくら呪霊操術が出来るといっても一度にこんなに大量の呪霊を操ったことはない。
おそらく操縦不能だ。自分も巻き添えをくって呪霊にやられるかもしれない。
がしかし、呪詛師は一か八かの賭けに出ることにした。最悪ここから逃げればいい。
呪霊がこの目隠し野郎を襲っている隙にラボを抜け出すチャンスくらいはあるはずだ、と考えた。
イヒヒ、イヒ、イヒと呪詛師は猟奇的な顔を浮かべ呪霊が入ったビーカーを傾けていく。だがその猟奇的な笑みは一瞬で恐怖へと変わった。
「こんなの本来の僕の仕事じゃないんだけどねぇ」
目隠しをした長身の男は一斉に放たれたおよそ100体の呪霊をものの数分で鏖殺した。
手に付着した呪霊の粘りをうっとおしそうに払いながら、固まって動けなくなっている呪詛師の元へゆっくりと近づいてくる。
「死ねぇぇええええ!」