第5章 恋情と嘘
五条はもう少しで確固たる証拠を掴もうとしていた。呪術界上層部の一派の中に薄汚い事に手を染めて闇商いを行っている人物がいる。
「そんなの私には無理です。調べられませんよ」とたじろぐ伊地知を無理やりおどして徹底的に調べさせた。
伊地知潔高はなかなかに優秀な補助監督で、五条からいつもぞんざいな扱いを受けてはいるもののその仕事ぶりは高く評価されていた。
伊地知の調査によると、あちらこちらにうようよしている人間の負の感情を、掃除機で吸い取るかのように容器に集め、それをもとに呪霊を人工的に発生させるラボが建設されているとのことだった。
政界・経済界・裏組織・カルト集団などから暗殺リストを送ってもらい呪霊を操れる呪詛師と結託して暗殺を実行するのだとか。
見返りに多額の金をもらっているであろう入金の一覧も調査書に付属していた。呪霊により殺められた残骸・事件は、警察ではいわゆるお蔵入り案件となる。
一般人はおろか捜査一課の腕利きの刑事でさえその解明をするのが難しい。なんせ犯人、つまり呪霊や呪力そのものが何も見えないのだから。
最終的にお蔵入り案件は、呪術界に調査依頼がまわってきて呪術師たちが派遣されるシステムになっていた。
「そこまでして私腹を肥やしたいかねー」
伊地知が運転する車の中で腕組みをし、やっぱりあいつら全員殺してしまおうか、と憤りを露わにしながら五条はそのラボに向かった。
山道を走っていくと急に切り崩したように土地が開け、小さな工場のような建物がポツリと姿を現した。
数名、見張りがいたが五条にとってはなんの問題もない。薄暗いその工場の中に入っていくと無機質な鉄壁の部屋が3つ存在していた。
窓は正方形で手のひらほどの大きさしかない。
かろうじて入りこむ光に目を凝らすと、ちらちらと呪霊の姿が映し出された。なんと、その呪霊はビーカーの中に保管されていた。
2級、3級と等級別にラベルが貼られたガラスケースを五条がガラガラガラと開けると、所狭しとビーカーが並べられている。
およそ100体くらいはいるだろうか? むさくるしい湿度でガラスケースの内部が満たされていた。
「伊地知ぃー、これサンプルひとつ持って帰って」
急に五条に渡されたビーカーを伊地知はあやうく落としそうになる。