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【呪術廻戦】-12年目の真実-

第5章 恋情と嘘


 伏黒恵はすでに硝子の治療で回復しており、自室で安眠している。恵が負傷した現場に未亜がいたのを硝子が目撃し、五条に連絡を入れたのだ。

 駆けつけた五条は、目の前にすっと立った。凍てつくようなピリっとした冷気が肌を刺す。

「どういうこと? お前がやったの?」
「そう」
「事情、説明しろよ」
「え? またー? さっき硝子に説明した」

 "ガシャーン"

 五条が近くのストレッチャーを思いっきり蹴飛ばし、壁に激突した。普段、感情的にならない人が感情的になるというのは、怖いというよりその意外性に驚いて、その空気が周囲を戦慄にする。

 悟がここまで感情を乱すってことは、恵くんはやっぱり大切な存在だったんだなと未亜は思った。計画でいえば成功だ。

「まあまあ冷静になれよ五条」と硝子がたしなめると五条は少し間をおいて向かいの長椅子に腰かけた後「冷静だよ」と答えた。

 五条の興奮状態を見かねてか、硝子が代わりに話を続ける。

「伏黒は当然拒否するだろうね、虎杖をこっそり暗殺してくれないかなんて話。もともと虎杖を五条に頼んで連れてきたのは伏黒だともいえるし。

 そんな伏黒が言うこと聞かないからってケガさせておどす? いったい未亜どうしたの? この間まで普通だっだじゃん?」

「今も私は普通だよ。硝子が知らない一面を見ただけじゃない? 伏黒恵は両面宿儺を存在させておく恐怖を知らないだけだよ。私がそれを教えてあげただけ」

「正気で言ってる? 伏黒にとって虎杖は仲間だよ。虎杖自身も自分の立場をわかってて懸命にやってる。未亜はもう呪術界にはかかわらないんじゃなかったの?」

「かかわらないでいようと思ったけど、この現実を知って高専のやり方が許せなくなっただけ。人間は些細なことで変わるんだよ、それは硝子も悟も知ってるはず」

 一瞬の沈黙が流れた。人間は些細なことで変わる――3人が脳に思い浮かべる人物は同じだ。

 たとえ、その身に危険な呪いを宿していても殺せない恵の気持ちも痛いほどわかっていたが、道理を通していたらこの計画は遂行できない。

 とにかくここで、仮面がはがれるわけにはいかない。その仮面がはがれおちそうになる自分を守るには、心にもないことをつらつらと発言するしかない。未亜は気をさらに引き締めた。五条が足を組み替える。
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