第1章 再会
◇
――2005年東京都立呪術高等専門学校 1年――
ようやく夏の照りつけるような太陽が陰りを見せはじめ、エアコンを朝まで付けっぱなしという寮生活から解放される季節になっていた。
寮は高専の敷地内にあるので、通学というほどの距離でもないが、教室のある校舎までは歩いて10分ほどの距離がある。そろそろ出なきゃ、未亜は軽く小走りしながら校舎へと向かった。
「手出せよ」
校舎に行くやいなや五条が玄関で待ち伏せしていて、いきなり偉そうに威圧してくる。
「何? 嫌だよ。蝉の抜け殻とかのせるんでしょ? それとも幼虫系? 式神でも苦手なのに本物はマジでだめって言ったでしょ」
「ちげーよ、小学生か!」
「小学生じゃん! 入学して早々、これやるーって手のひらに蛙、乗せたの誰よ」
「いいから、早く出せって」
何で朝からキレられなきゃいけないのと思いつつ、おそるおそる手を出すと、手の中に腕時計を渡された。
丸い形のシルバーの時計盤。洗練されたそのデザインはアクセサリーとしても使えそうだった。小さなジュエリーが文字盤に埋め込まれていて、高校生の私にはちょっと大人っぽい? っていうか、こんな高そうな時計、見たことない。
「何これ?」
「この間、俺が壊しただろ? それの代わり」
五条は斜め下を向きながらバツが悪そうに首の後ろを撫でていた。
◇
少し遡る話だが、入学当初から既にそこそこ祓えた五条と未亜は、即戦力としてよくペアで任務にあてがわれていた。とある調査を任されたのだが、今しがた五条から聞いた言葉を確認したくて問い返した。
「姿が見えない呪霊だって?」
「らしい」
「そんなの祓えないじゃん! 絶対ないない」
「面倒くさそうだし、お前に任せた」
「はあ? そのいい目、使って探せ!」
ちょっと厄介そうな案件だった。が、調査に行くとしっかり残穢が見えたので、追いかけると江戸時代に使われていたと言い伝えのある寺子屋にたどり着いた。
どうやら寺子屋と呪霊が一体化しているらしい。この中に隠れているんだろうか?