第5章 恋情と嘘
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特級仮想怨霊を解くと、とりあえず危険因子は祓ったからと五条は未亜をいったん解放した。
――これで解放されているようではダメだ。殺すと言ってはいたけれどきっと五条は私を信頼している。それにまだ時期尚早だ。
私は五条悟に殺されなければならない。
すべての罪を被って。出来るだけ多くの罪を被って。
そのために二度とくることがないと思っていた高専に、五条悟のもとにやってきたのだ。
どうやったら五条が私を殺せるのか……。
未亜は知恵を絞って考えた。
本気でやりあったら力の差は歴然だけど、恐らく五条は簡単に私の事を殺したりはしないだろう。仮にも元恋人、一時は結婚も考えていた相手。
年月の流れの中で変化があったにしても命を奪うというのは例外を除いて並大抵の決意で出来ることではない。
例外……それは明らかだ。呪詛師、術師殺し、そういった類いの人間には五条は容赦なく手を下せる。
未亜と五条は呪術師という意味での本質的な核の部分がとても似ていた。
夏油が高専の時に話していた非術師を守るために術師はある、という正論も横で聞いてて未亜は眉をひそめていたし、祓う事そのものに意味づけする事もよくわからなかった。
己の中にある絶対的な術師としての本能、呪いによる被害を抹消する、しいては救える人を救いたいという言葉につながるのだが、自分の持ってる呪力と術式が勝手にそう行動する。そんな感じだった。
もちろん人道的な考え方や人としてのあり方、優しさ、思いやり、助けたいという気持ちは心の中に存在するから、そういう思いも原動力にはなるのだけど、根本的に五条も未亜も"祓うことに関していかれてる部類"の術師だった。潜在的な本能に近い物があった。
だからこそ五条とは惹かれあったのかもしれないし別れて呪術界を去ってからも想いが消えなかったのかもしれない。
9年も経つといろんなことが冷静に見れるようになったものだと未亜は思った。