第5章 恋情と嘘
「やっぱり悟にはなれないな」と彼にもらすと「俺になりたいの? おもしろいこというね。お前にしかできないこともあるんだからそれでいいだろ」と言われた。
そうなんだけど……。
悟にこの気持ちはきっとわかってもらえない。未亜は五条を見つめながら感じていた。
五条は人の命に対してどちらかといえば冷静だ。いちいち胸を痛めていては最強は務まらない。
でも、決して何も感じないわけではない。おそらく恋人の私が傷ついたり瀕死になるようなことがあれば、闘い中でも心にわずかなブレが生じることもあるだろう。
それが未亜は嫌だった。自分だけ特別に必要以上に心配されたくなかった。呪術師としてのプライドもあったし、彼に迷惑をかけたくはなかった。
悟はきっと守ってくれる。でも守って欲しくない。
複雑な気持ちのまま病室を出てしばらく歩くと夜蛾先生や、親や、先輩、後輩が駆けつけてきて皆心配そうな声で無事を喜んでくれた。
そのまま教室に向かったが、五条はいない。それから5日間、彼を学校で見ることはなかった。
次の任務に出かけたり今回の呪詛師たちの調査で忙しいとのことだった。携帯で直接連絡はしたが簡単な返事が返ってきただけだった。
6日目、久しぶりに学校で五条に会った。すごく疲れているような顔で、そう、こんな顔を見るのは、2年時の夏油の事件以来だったかもしれない。
五条が廊下の向こう側から歩いてくる。いつもより重そうな足取りは遠目からでも感じ取れる……そのまま真っ直ぐこちらに向かい真正面に立たれた。
「別れよう」
「え?」
あまりにも突然の言葉、でも心のどこかでいつかそうなるんじゃないかと思っていた結末。未亜は手をぎゅっと握りしめた。
「……どうして?」
「弱い奴は嫌いだから」
間一髪入れず言葉が返ってきた。まるであらかじめセリフを準備していたかのように。