第5章 恋情と嘘
その後はよく覚えていないが複数人の術師が来て五条と共に戦いを繰り広げていた。
背中の傷は反転術式で治癒し消えていったが未亜はただその惨劇を見ていることしかできず、気が付くと高専のベッドに横たわっていた。
◇
目を開けると硝子がそこにいた。
「大変な目にあったな。めちゃくちゃ心配したよ」
あたたかいお茶を硝子は出してくれた。そのぬくもりと硝子の顔を見てやっと今未亜は無事に高専の病室にいるのだと確認した。
「悟は? ほかのみんなは?」
「みんな無事だよ。問題ない」
「よかった……」
胸をなでおろした。
呼んでこようか? と硝子は言ったが、いい、ちょっとひとりになりたいと未亜はもう一度ベッドに横たわった。
未亜は心に大きな鉛のようなものがのしかかっていた。
硝子の話によると、今回の事件は「五条悟を闇に葬りたいと考えた呪詛師集団が仕組んで企てたもの」だったそうだ。
「やってしまった……」
ずっとずっと心の奥底で懸念していたことが現実になってしまった。五条悟と付き合いだしてその年月が長くなるにつれ、日に日にその懸念は未亜の心の中で強くなっていった。
いつか自分が五条の弱みになるんじゃないかっていう危惧。
それは未亜のせいで起きなくていい事件が起きて、五条の足をひっぱって、誰かが死ぬんじゃないかっていう不安だった。
五条は最強の呪術師となって世界のパワーバランスを司る人物になっていた。誰も五条悟には勝てないとわかっているので少なくとも呪詛師たちはむやみに戦いを仕掛けない。
それによって絶妙な均衡を保っているようなところがあった。だが、呪詛師たちにとっても呪霊にとっても五条はまさに目の上のたんこぶ。
となると画策として考えられるのは「五条悟の弱み」。そこを突いて五条を陥れようとしてくることは十分に考えられる。
未亜は救える人を救いたいという思いで呪術師になったが、次第に強くなりたいのは自分の命や誰かの命を守るためではなく、五条のためにそうなりたいと思うようになっていた。
それもあってか未亜の術式の質はさらに上がり、領域展開も可能になり、等級は1級にまで上がっていた。
でも、どんなに頑張っても五条悟にはなれない。五条悟よりは弱い。