第5章 恋情と嘘
結界が緩んだことで未亜は少し呪力を取り戻していた。
重ねて五条のくれた腕時計が呪具のような呪力を放っておりそこに集中すると鋭利に変形し包まれていた風呂敷を切り裂くことができた。
が、まだ組紐のようなものに体を縛られている。上空の悟と目が合った。全員ぶっ殺すと目が語っている。
「私のせいだ、ごめん」
自分の身くらいはなんとかしようと、組紐をほどこうとするが呪いに締め付けられて身動きがとれない。
周囲を確認する限り、術式を発動しても影響を受けそうな呪術師はいない。五条は上空にいるし術式範囲外だろう。
問題ない――未亜は指を後ろで交差させると詠唱しはじめた。
「華部大天経……現神変相種々無差別(げんしんへんそうしゅじゅむさべつ)」
一定の範囲内で自と他の遺伝子を選別し、他と判断したものの中枢神経に呪力が打ち込まれる術式だ。
唱え始めてふと隣を見ると「未亜ちゃん」と声がした。匡兄ちゃんがいた。
「お兄ちゃんが遊んであげるから五条はやめておけ。五条は危険だ。あいつの側にいたらまた命を狙われる」
優しい声で話しかけてくる。
わかってる。こいつはもう匡兄ちゃんではない。ただの呪詛師だ。私を陥れ五条を殺めようとこの集団の中に加わった人間だ。
「この呪詛師を殺せ」
未亜の中に命がくだるのだが同時に小さい頃の思い出がよみがえってきて、急に目の前の人間が死ぬことが怖くなった。
遊んでくれたお兄ちゃんが自分の手にかかって死ぬ……。 未亜は怖くて、詠唱が途中で止まってしまった。
ニヤっと匡兄ちゃんが笑った。「死ね!お前も道連れダ」未亜の背中にナイフのようなひんやりとした金属が刺さった。
「ダ、、、ア」
匡兄ちゃんが最後の言葉を言い切る前に、五条の高速な蹴りが匡兄ちゃんの顔面を捉えた。
「お前だけは絶対に許さねぇ! 言い残すこともねーだろ。死ね」
噛んで吐き出すような声が静かに響き渡る。
パシュー
匡兄ちゃんが息絶えるのに1秒かかっただろうか。瞬殺だった。