第5章 恋情と嘘
それからほんとに時々だが、面白い布が手に入ったといっては高専の近くまで見せにきたりして、見てみると術式による残穢を布に転写したらしく「ひとりひとり違って面白いよね。こうやって可視化できるんだ」といって芸術的な文様で編み込まれたハンカチをくれた。
とても巧妙でそれが呪いだとは気づかずに未亜は受け取っていた。
未亜にとってはほんとにただの遊んでくれるお兄ちゃん。それ以上でもそれ以下でもない存在だった。
夏の終わりにさしかかるころ、匡兄ちゃんから連絡が入り、これまでのハンカチをすべて持ってきてほしいというのでそれらを持って待ち合わせ場所に出かけた。
「こっちこっち!」
いつものように手をふるお兄ちゃんのところにかけよると、急に表情が豹変した。
「バカなやつ」
そういうと術式を放たれ、少しずつ蓄積されていった呪いのハンカチが継がれて巨大な風呂敷のように呪霊がうまれ未亜を包み込んだ。
続けて組紐のようなもので体をぐるぐる巻きにされ、未亜は拉致された。
あまりに一瞬でわけがわからず、風呂敷の中に包まれると呪力が吸収されてしまったように動けなくなった。
その頃、高専では未亜が時間になっても戻っていないことで学長が動き出していた。
母親の琴も心配で「どうなってるんですか?」と上層部にかけよっている。
「何かに巻き込まれた可能性がある。おそらく――呪詛師集団だ」
夜蛾が重々しい口どりでそう語ると、五条は椅子を後ろにガタンとひいて立ちあがった。
「ふざけた真似しやがって。どこのどいつか何が目的か知らねーけど、どうせ俺に喧嘩うってんだろ」
今にも飛び出そうとするのを見て
「悟、落ち着け。まずは安否確認からだ。今、形跡を補助監督がたどっている」
夜蛾が必死で五条を制した。
どれだけ時間が経っただろう……。
補助監督から連絡は一向に入らない。
五条のイライラが募る。硝子も「もうそろそろ動かないと未亜が危ないんじゃ?」と夜蛾に促した。