第4章 交錯
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24。
未亜は改めて自分の年齢を確認し、止まっていた思考を再起動させた。
そっか……私24歳になったんだ。
そして24歳0日になったあの日、最速で五条悟は私を迎えにきてくれた……。
私が何気なくつぶやいた「お願いします」の約束のタイミングで、プロポーズの言葉を準備してマンションまで来てくれた。
あの日はいないって言ったのに私が帰ってくるのを、きっとずっと待っていた。
まさか、知らない男と一緒に帰ってくるなんて、あの時、悟はどう思ったんだろう。
「誕生日にここに来る意味がわからない」
言い放った私の最後の言葉を聞いて、どれほどショックだっただろう。
急に視界がぼやけだした。
硝子が滲んでよく見えない。
いつから?
ひょっとして渋谷で再会したあの日から?
きっとやるならサプライズ!と思ってこれまで考えてくれてたんだろう。
薔薇の花束をもらった私が喜んで、最高の笑顔で悟の胸に飛び込んでくると思ったんだろう。
これまでとどめて我慢していたものが、すべて流れ出たんじゃないかというくらい、涙があふれて止まらなかった。
初めての告白よりも、元付き合ってた相手への告白の方が難易度が高い。過去に痛みを伴って別れている分、振った方も振られた方も簡単にその言葉を口にすることは出来ない。
友達という関係からそれ以上になるにはそれ相応の覚悟がいる。二度と同じ失敗はしたくないからだ。
襲ってもいいよ、なんて私が投げかけた馬鹿みたいな薄っぺらい関係にも手を伸ばさず、悟はもっと先の未来を考えてくれていた。
息が苦しい。呼吸ができない。
メッセージカードを持つ手が震える……。
もう片方の手で持った薔薇の花束がぶるぶるするからぎゅっと胸で抱きしめた。
心の炎は自分で消したはずなのに、その消火した何もない燃えかすのようなところにさえまだ、好きという気持ちが残っていた。
どうしようもないくらい悟のことが好きだった。
「私から五条に説明しようか?」と硝子は声をかけてくれたけど、いい、ありがとうと断った。
嘘をつき、傷つける言葉を吐いて、両思いならもう一度受け入れて、なんて都合のいいこと言えるはずもなかった。
何より私は弱虫だ。
こんなに悟が好きなのに好きの2文字が伝えられない。