第4章 交錯
硝子の真剣な眼差しに未亜の胸はドキリと音をたてた。なんだか聞くのが恐ろしい。硝子はいつだって冷静だ。余計なことは言ったりしない。
未亜と硝子の間に、ひやりとした空気が流れて未亜はおもわず息を呑む。
「私の妻になってください、だ」
――え?
何かの間違いじゃないかと慌てて薔薇の本数を数えなおした。よく見ると、封になったカードが花束に添えられている。
あの日は用事で出かけると、五条に連絡してたから、もし不在だった時はカードを付けて玄関に置いて行くつもりだったのだろうか?
五条と未亜を侮辱したあの男と別れた後は、一度ベッドに倒れ込むと体が動かなくなっていた。
薔薇の花束にまさかカードがついていたなんて、全く気付いていなかった。
おそるおそるカードを手にした。慎重に開封し、そのメッセージに視線を落とす。
" 約束果たしにきた。俺、記憶力すげぇよな(笑)"
約束?? 俺?
何のことだろう? 未亜はすぐにはわからなくて、しばらくじっと考えこんだ。なんか約束したっけな?
1番近い記憶から順に五条と話した事を思い出す。
俺……。そうやって五条が自分を俺と呼んでいたのは多分もっと昔の話。
持ちうる限りの自分の記憶を高速にフル回転させた。
――ハッ!!!
約束の記憶がつながったとき、呆然と立ち尽くした。
世界のあらゆる動きの中からまるで自分だけが取り残されてそこに佇んでいるような、時の谷間につきおとされてしまったような、そんな感覚に陥って体が全く動かない。
――思い出していた。高専3年の時、教室で何気ない会話を硝子としていた時のことを。