第4章 交錯
一瞬だけたじろいだ。
でももう後戻りは出来ない。ここで五条を忘れなければ、きっと婚約から結婚に至った後もこの人の事を思ってしまう、今関係を絶たなければ! そんな決意が働いた。
「う……ん、そうだよ。優しくて頼れる人。黙ってたけど結婚を前提に真面目に交際してるんだ。だから、まぁ、うんそういうこと。……悟も幸せになってね。お仕事の方も陰ながら無事を祈ってます」
「じゃ、今から僕たちお祝いだから」
合コンの彼はリボンのかかったシャンパンの袋を五条に見せ、いかにもマンションに入りますといった仕草で、未亜をぐっとひきよせた。五条は軽く笑った。
「僕のことはなんとも思ってないわけ?」
「う、ん。なんとも、思って、ない。……え? まさか私が悟を好きだと思った? やだよ、悟、浮気するし、嘘つくし、っていうか用事があるってLINEしたのに誕生日にここに来る意味もわからない」
言いながら唇がわなないた。胸を剣山で刺されたような激痛が、数秒遅れでやってくる。
これでよかったんだと、心に灯った炎を消したんだと言い聞かせるその代償に、全身から血がほとばしるような胸の痛みが激しく襲う。
未亜が言葉を言い終えた時、五条が傷ついたのもわかってしまった。
表情が強ばって、しなやかな身体が1ミリも動かない。硬直してぎゅっと拳を握りしめている。
「わかったよ。そっちの世界で過ごすのが願いだったもんなー。せいぜい幸せになれよ。もう会う事もないだろうけど」
五条は手に持っていた紙袋を未亜の胸に目掛けてぎゅっと強く押し付けた。ほのかにふわっと香りがする。
じゃあなと五条は去って行った。
いきなり渡された紙袋。
そういえば、お土産持って行くって言ってたっけ?
五条とのLINEを思い出し、そっと紙袋をのぞくと、お土産らしき包み紙と薔薇の花束が入っていた。
薔薇?? 悟が薔薇? これは誕生日プレゼント?
未亜は目を丸くした。4年前の五条ならこの手のプレゼントを女性にやりそうになかったからだ。しかもただの友達に。