第4章 交錯
悟とは違う細い指……。
こんな時でもまだ五条の事を思い出す自分がいるのか? とつくづく自分が嫌になる。
デートも終盤にさしかかり、電車に乗って自宅の最寄り駅まで戻ってきた。ここからマンションまではもう少し歩かなくてはならない。
「プレゼントを渡したいんだけど、ケーキでも買って一緒にお祝いする?」
彼はリボンのかかったシャンパンを見せる。どうやらこの近くのリカーショップで予約をしていたらしい。
未亜が駅に着き、寒いなぁと手を擦り合わせている間に、ささっと取ってきたようだ。
今日、1日彼とデートをしてみたが、気持ちがブレる事はなかった。次に踏み出さなきゃと、無理矢理気持ちを駆り立ててみたけど、それは好きという気持ちにはなりそうにない。
誕生日を一緒に過ごすほど、心は彼には傾いてはいない。
未亜は期待させてしまったかな、と少し申し訳なく思いつつ「今日は玄関までで、ごめんなさい」と丁寧な断りを入れた。
彼の顔には落胆の色が見えかくれした。勤務日程まで変えたのに、という圧が未亜に引け目を感じさせる。
じゃあ、そこまで手を繋いでていいか、と言うので頷き、マンションの入り口まで手を繋ぐことにした。
マンションは坂を登りきったところにある。登りきって50メートルほど歩くと、その入り口にたどり着く。
駅からマンションに向けて歩き出すと、彼は手を繋いできた。
―早く帰って休みたい。
そう思った。五条以外の男性との外出が、こんなに疲れるものだとは思ってもみなかった。
確かに手は寒かった。だけど、繋がれた手は、むしろ心の体温を奪うものだった。早く手を離したかった。
いよいよ坂に差し掛かる。隣りの彼はゆっくり坂を登り始めたが未亜はそれよりペースを速めた。
コツ、コツ、コツ
ヒールの踵にややこたえるが、歩幅を少し広くして早く坂を登ろうとする。
傾斜が緩やかになり始め、そろそろ手を離してもいいかな、そう思いながら最後の坂を登り切る。平坦な道を歩き出したその時だった。
突然、未亜の目に1人の人物が入ってきた。
入ってきたのは、見覚えのある長身の影と特徴のあるふわっとした白髪と四角いサングラス。
遠巻きだったがすぐにわかった。
五条悟がそこにいる。