第4章 交錯
琴が言いたかったのは、つまり
「五条家の坊ちゃんとお付き合いしていても、どうせ結ばれない。五条家が許すわけがない。だから別れてよかったんだ」ということなのだろう。
五条と別れて2年。心のどこかでまだ悟を思っていることを察したのだろうか?
こうやって別れたことに正当性をつけて、納得させてくれたこともまた母親の愛情かもしれない、と思い
「ありがと。でももう悟とは会ってないし何とも思ってないから」
そう言葉を返したのだった。
◇
先ほどの楠本という男が、その一条家を煙たがる一部の人間に該当するなら、今回のこの話もおかしくない。でも気にかかったのは、やたら言葉に自信があった点だ。
一見にしかずとはどういうことだろう?
五条に直接LINEしてもよかったが、忙しいといって連絡を絶っているのに煩わせるのも嫌だった。
それに、もしそれが真実だったら……。そう考えると文字を打つ手が震える。返ってくる返事が怖くて聞く事が出来ないのだ。
心の中の合戦が戦いの火蓋を切る。
五条に婚約者なんていないと信じている自分と、いやいや婚約者がいてもおかしくないと疑う自分との戦い。
本当の悟はこっちだと言って悟の手を自分の陣地に引っ張るようにせめぎ合う。だけどこの戦いは最終的にはなんの結果も生み出さない。
戦いがヒートアップを迎えると、
「そもそも信じるってなんだ?」というもう1人の自分が現れる。考えることが馬鹿らしくなる。
信じるも何も、そもそも私は彼女じゃない。仮に婚約が進んでいたからってなんだっていうんだろう。
楠本は明日、五条のマンションに行けば一見にしかずといっていた。五条は今、海外にいるんだし自宅にいるわけがない。とりあえず行くだけ行ってみようかな……。
未亜はそう思ってその日を終えた。