第4章 交錯
「これでよかったんだ」
琴がそう言ったのは、五条と別れ、呪術界とも身を離し、非術師たちと同じ世界で生活するようになってからだ。
話によると、五条家と一条家は大昔にトラブルを起こしたことがあるらしい。今でもその時の因縁が、一部の人間の間で跡をひきずっているとの噂も。
そのことが原因なのだろうか?
一条家は三大怨霊のひとつ崇徳天皇の子孫で、五条家とは変わらない歴史があったにもかかわらず、呪術界の御三家とは少し影をおとしたところに位置付けられていた。
高専に入学したときも、保守派の一部の上層部からは、なんとなく煙たい目で見られたのを覚えている。
一条家、それは一言でいえば、反転術式のプロ家系である。
他人に施すことができる術師も多く、呪術界では長年重宝されてきた。代々その秘伝が受け継がれて、今の代に至っており、母親の琴もその一人だ。
呪術界の上層部やVIPを中心に反転術式を施しており、硝子だけでは手が回らない時には高専からも声がかかる。その時々に応じてあちらこちらと出入りしているようだった。
未亜も幼い頃からその秘伝を生得術式に流し込まれ、他人に施す事は出来なかったが、自分には反転術式を使うことができた。
母親は五条家と一条家についての話を続けた。琴が言うには、その因縁の発端は室町時代に起きたらしい。
反転術式を施すために出入りしていた一条家の術師が、五条家の若奥様といい仲になってしまったそうで。
その後生まれた子供が六眼だったことから、一条家にその子を譲れ譲らないで大騒ぎになったんだとか。
今となってみては、その子供が本当に一条の子供だったのかも不明、そもそも2人がいい仲になっていたかどうかも不明、記録はあいまいなまま、言い伝えだけが残ってきたとのことだった。
悟が当時、それを知っていて未亜と交際していたのかはわからない。
どっちにしても彼が聞いたら、どーでもいいくだらねぇ話と言いそうなことではあるが。