第1章 再会
未亜は一気に緊張が解けた。五条と顔を合わせるのは、高専を卒業してから実に4年ぶりだった。同学年で同じ年に卒業しており、そこからは顔を合わせていない。
こっち、とカフェに向かって先に歩き出した五条を小走りで追いかける。追いかけるその背中の黒いサマーニットがかすかに揺れ、黒い背中に高専の黒い制服が重なった。
懐かしいな、歩く五条の背中を見ながらふと未亜はそう思った。
しばらく歩くとおしゃれな飲食店が立ち並び、人の列が出来ている。さすが渋谷! と言った感じだ。五条はその中から人の少なそうなカフェを選んだ。
"カランカラン"
ベルの音で店員さんがこちらに振り向き、屈託のない笑顔を見せる。いらっしゃいませ、と出迎えられて五条と店内に入った。
中の小窓はすりガラスが使われており、斜めに入りこむ強い日差しを、柔らかいものに変えている。聞こえてくるのはフランスのパリを思わせるアコーディオンのBGM。それらがゆるやかな時間を醸しだし、常連さんと思われるお客さんが数名、珈琲の香りを楽しんでいる。
初めて来たという五条の直感はなかなかすごい。落ち着いて話が出来そうなカフェだった。久しぶりの再会を察してくれたのか、笑顔の店員さんは、五条と未亜を1番奥の席に案内してくれた。
ほどなくしてケーキセットがテーブルに並んだ。
「どう? 一般人の生活は? 今、たしか会社員なんだよね?」
「え? 生活? う、ん、まあ楽しいよ。嫌な上司とか理不尽な仕事とかそういうのはあるけど、それは呪術界も同じか。一言でいうと、穏やか、かな、命を狙われる事もないし」
言いながら胸の奥に刺さった棘がほんの少しだけ疼いた。ちらっと五条に目を移すと、口を付けたコーヒーに甘みが足りなかったのか、シュガーを2本追加している。空気を変えたくて話題の焦点を、五条に切り替えた。
「悟は、どうしてるの?」