第3章 五条の後悔
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「泊まってく?」
五条はまるで「コーヒーでも飲む?」と聞いているかのような何気ない口調で尋ねてきた。
気がつくと終電の時間が過ぎている。
五条のごめんを聞いた後、直ぐに帰ろうと思ったが、あまりに五条が辛そうな顔をしているのと、未亜自身もひどい顔をしていそうで、すぐに都会のざわめきの中に出ていくのが億劫だった。
雨はさっきよりひどくなり、ザーッと雨音をたてている。タクシーを呼ぼうとスマホで検索しているところに五条が声をかけてきたのだ。
五条はすっかり元に戻っていた。さっきまでの深刻な顔は、嘘のように消えて、あーあ、明日からまた出張なんだよねーと嘆きながら見ているのは出張先のスイーツマップ。
「お土産、何がいいー? 」とマップを見せてきたが、未亜はそれどころじゃないと言って、タクシーを検索していたところ、泊まっていくかと言われたのだ。
節操がないのはそっちじゃないか、と思ったが、何も起こりそうにないこの雰囲気に未亜は甘えることにした。
何一つ気負ってなかったが、さすがに泊まるとなると、やや緊張で体が強張る。言われるがままに五条の後について行った。
「僕はソファーで寝るからここ使っていいよ」
五条は寝室のドアを開け、未亜を中に誘導する。間接照明のぼわっとした明かりがほんのり部屋を映し出す。
一番最初に目についたのは、どう考えても一人で寝るには大きすぎるそのベッド。五条が5人くらい寝れそうだ。
シルク調のベッドカバーが高級感を思わせる。一緒に寝るわけでもないのに、枕が2つ並んでいるのを目にすると変に気持ちがざわざわする。
――悟はこうやって誰でも簡単に女性を寝室にいれたりしてるのかな?
あたりを見渡して、考えなくてもいいことまで考えてしまう。本当にここを使って大丈夫なのかな? 何か見たくないものを見てしまわないかな? 肩に入った力が抜けない。