第3章 五条の後悔
「ありがと悟、なんか悪いね……。あ、えっと、髪の毛とかベッドに落とさないように気を付けないとね」
「え? なに気にしてんの? 僕しか使わないんだからまったく問題ないよ、ゆっくり休んで」
「あ、そうなんだ」
少し肩の力が抜けた。ということは、今、彼女はいないのか……。今更ながら安心する。じゃ、おやすみ、と言って五条は去っていった。
はじめは落ち着かなかったが、いったんベッドに身を沈めると、まるで全身が五条に包まれているかのような何かとても穏やかな気持ちになった。
寝具からほんのり漂う彼の香りがヒーリングのような効果をもたらす。さっき借りたぶっかぶかのトレーナーがほっこりと温かい。
照度を落とした電球色の仄暗い灯りがぼんやりと目に入り込む。その視界は少しずつ狭くなり、未亜は眠りへといざなわれていった。
――こんなベッドで寝たからだろうか? 未亜は五条の夢を見た。彼がベッドの縁に腰かけて、そっと頬に手を伸ばしてくる。親指の腹が唇に軽く触れるとその弾力を確かめるように下唇を軽く押す。
その手がゆっくり頭上に伸びると、いつもみたいにわしゃわしゃと頭を撫で回すのではなくて、優しく髪をすいてくれた。
何か言いたげにしているけどわからない。無限に空が広がっているようなその青い眼差しが揺らぐのを見ていると、なぜかこちらまで切ない気持ちにさせられた。
そっと瞼を手で覆われ、夢の中でまた眠りにつく。
夢、きっと夢、たぶん……夢。