第3章 五条の後悔
なぜ、呪術師をやめたのか? もう4年も前の話である。なぜやめたのかなんて今となってはわからない。
いや、それはちょっと違う。ほんとはわかっているんだけど、思い出したくなくてわからないことにしているのだ。
「ちょっと聞いてくれる?」と五条に話しかけられたが、後ろを振り返らないまま「なに?」と未亜は返事した。
「僕さ、後になってあん時ああすりゃよかったとか、こうすりゃよかったとか、そういうのあまり思わないんだよね。でも、2つだけ、後悔してる事があって」
「1つは傑のこと。そしてもう1つは」
五条は一呼吸おいた。
「君のこと。――ごめん、未亜は弱くないよ、今もあん時も。それは僕が1番知ってたはずなのに、まだ、なんつーか、ガキだったからあれで守ったつもりになってたっつーか」
五条の言葉はそこでフェードアウトしていった。しんとした静けさが2人を包み込む。
まさに寝耳に水だった。未亜は耳を疑った。ごめん、未亜は弱くない、ってそう言った?聞こえた言葉をもう一度頭の中に落とし込む。あん時って高専の時の事だよね?
なんで今さらそんなこと……。
「弱い奴は嫌いだから」
高専時代の五条の顔が蘇り、未亜の心臓に突き刺さる。
それは別れの言葉だった。あの時全てを受け入れたのに。
自分を責めて、悟みたいになれないこともみじめで、悲しくて悩んで、それは悟の優しさかもしれないと思ったこともあったけど、それも含めて苦しかった。だから別れを受け入れたのに。
後悔してる、ってそんな事今ごろ言われたって、私にどうしろっていうんだろう。言い返そうと、五条の方に顔を向けた。
が、しかし、口から出た未亜の言葉は全く別のものになった。
「あ、はは、そういえばそんなことあったっけか……。どっちにしても自分で納得して今ここにいるわけだから、そんな昔のこと気にしないで」
誤魔化すように未亜は笑った。
五条の顔があまりにも辛そうだったから。