第3章 五条の後悔
「ねぇ、何か手伝おうか? 特に何もすることないし」
「いいよ、何もしなくても。お客さんは座ってるもんでしょ」
必要ないと首を振られる。
――自分も座ってなかったじゃん、てか、つまみ食いしに来たくせに
喉まで言葉が出かかったが、どうせろくな会話にならないと思い、言葉をひっこめた。
「ひゃっ、なに」
突っ立ったままの未亜を見て、五条は片手で腰を抱き上げた。まるで荷物でも運ぶかのように腕一本で支えている。
急に腰に回された手や、密着した体が、別の意味で落ち着かない。
五条は10人掛けソファーのど真ん中まで未亜を運ぶと、無理矢理そこに座らせた。ここで大人しくしていて、と五条は未亜に顔を近づけ、仕方なく従った。
結局、五条の家にいる限りどこにいても落ち着かないのだ。
しばらくすると、独特の和風だしの香りが未亜の鼻孔をくすぐった。そのちゃらけた風貌からは想像しにくいが、時々は自分で料理をするらしい。
窓ガラスが夕暮れに染まる頃には、さつまいも、秋刀魚、きのこといった秋の味覚が満載の和食料理をふるまってくれた。
まぁ、顔は確かにグッドルッキングガイ、それで背も高くてモデル並み、ご飯も作れて、肝心の性格は難ありだけど、これで女がいないわけない、と考えるのが普通だろう。
もし彼女がいたら、彼女は私の存在は嫌じゃないんだろうか? 一度開いた心の扉は未亜にとってなかなか厄介なものだった。
食事が終わると五条は、書類を数枚出してきた。「また寝落ちされたら困るからさっさと聞くよ」と笑いながら紙をひらひらさせている。
未亜と再会してから3ヶ月、放ったらかしにしていたのだから全くもって呑気なもんだ。