第3章 五条の後悔
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未亜は呆然と頭上を見上げた。予想してはいたけれど、それははるかに予想を上回る高級タワーマンションだった。
複数の地下鉄が乗り入れする駅から徒歩3分。駅と直結しているそのマンションは、雨の日でも傘いらずで商業棟とも隣接している。
銀行、コンビニ、飲食店、ドラッグストアからクリニック、駅からここに来るまでの間、並んでいた商業施設に足りないものなんてあるのだろうか?
頭上をぼーっと見上げたままぴくりとも動かない未亜に、五条は痺れを切らしたのか、こっち、と言って未亜の袖を引いた。
ここでもまたキンモクセイの甘い香りに出迎えらる。木々の安らぎに包まれながら、未亜と五条は中庭を抜け、エントランスロビーからエレベーターに乗り込むと、ピッと五条は最上にある42のボタンを押した。
「適当に好きな所にいていいよ」
リビングに入っていきなり五条に言われたけれど、広すぎてどこに身をおけばいいのかわからない。ざっと見ても20畳はあるだろう。
10人は座れるであろう横長のオフホワイトのソファーに対してL字型になるよう並べられた5人掛けのソファー。ふかふかのベージュ色の絨毯が敷かれ、シックなこげ茶色のローテーブルが置かれている。
大きな窓から日の光が差し込むと漆喰がそれを受け、普通の白壁とは異なる陰影を見せている。
こんなところで、どこかに腰を落ち着けて、と言われる方が無理だ。遠くに見える五条に向かって未亜は軽く苦笑した。
リビングをあちこちうろうろしたが、どこに座っても落ち着かない。ひとりぽつんとそこにいると何となくまた腰を上げてしまう。
別に居心地が悪いわけではないのだが、広い空間に一人でいるのは意外と不安でさみしいものだ。
五条のところに足を運んだ。