第3章 五条の後悔
五条と再会してから3ヶ月の時が過ぎた。いつもの帰宅ルートを変更し、脇道にそれると、キンモクセイの甘い香りがおかえりと出迎えてくれる。季節は10月に差し掛かっていた。
ひとつだけ、気になる五条の変化といえば、時々、じっと何かを考え込むような表情をすることだろうか?
「どうかした?」と聞くと、ふと我に返ったような顔をして「え、あぁ、僕の生徒がこの間、ビル1棟まるまるやっちゃってさー」と関係なさそうな話題に切り替えてくる。
先日、五条と町に出かけた際に、たまたま通りがかった古そうなアパートで、未亜が4級程度の呪霊を祓った時も同じような顔をした。
ちょっと行ってくる、と彼に言い残して、タンタンタンと階段を駆け上がり、祓い終わって戻ろうとすると、五条がアパートの下で待っている。
「こういうの、よくやるの?」
「よく、は、やらない。たまたま気になったから」
なぜこんなことをしているのかといえば、そこに呪霊がいるから。誰に言われたわけでもない。未亜にとっては自然なことで無意識に近かった。
その日は五条のマンションに招待されていた。庶民派ご飯のお礼に何か作ってくれるらしい。加えて、未亜が祓った特級呪霊の調査報告をいよいよ上に提出しないといけないらしく、それを書き上げたいとのことだった。
五条のマンションで2人っきりなんて、ちょっと前の自分なら色々な事を妄想して、勝手に緊張して、考え込んでいたかもしれない。でも今は違う。
一度あんな風に2人の関係性が出来上がると、マンションに呼ばれても、特段、友達以上の何かが起こるような気はしなかった。
それほど動じることもなく、五条のマンションに足を運んだ。