第2章 元カレ
気づくとソファーにもたれたまま眠りに落ちていた。いわゆる寝落ちだ。
ハッ
気配を感じて目を開けると、そこには五条の顔があった。壁ドンならぬソファードンとでもいうのだろうか? ソファーの手すりと背もたれの間に挟まれて身動きが取れない。
右側にいる五条が半身になって未亜を覆うように被さっている状態だ。高専の時なら間違いなくキスする寸前の距離感である。
思わず肩に力が入る。何でこんなことになってるの? とにかく状況を把握しなくちゃ、おそるおそる五条に尋ねる。
「な、なに?」
「なに? じゃないでしょ。はぁー、なぁーお前さぁー、わざとやってる? 僕に何かしてほしいとか思ってる? 今日、ここに呼んだのってそういうこと?」
寝起きでまだ頭がハッキリしていないのに、そんな事言われても、そんなキレ気味に聞かれても、どう答えていいのかわからない。悟の顔が近すぎてどこ見ていいかもわからない。
「ち、違うよ……そんなわけないじゃん。寝顔見るなんて趣味悪いよ」
「だよねー。未亜にそんな誘い方出来ないよねー。でも、男の前で無防備な顔して寝るとかやめたほうがいいよ、僕じゃなかったら襲われてるから」
五条のサングラスの隙間から青く強い眼差しが未亜の視線と重なった。
これは怒られたんだろうか? うかつに眠ってしまった元カノの節操がないと我慢ならなかったんだろうか? 未亜はわからなかった。
昔の彼女とマンションで2人っきり。デートみたいな食事を重ね、他愛のない事を話しては、また次の約束をする。そんな関係を世の中では何と呼ぶのだろう?
――ただの友達、ちょっと仲のいい友達、そんな相手に何であんな眼差しで、挑発するような事を言ってくるんだろう? もし私が、誘ってるんだと言ったなら、どうするつもりなんだろう?
悟の言葉に意味なんて考えちゃいけない、わかっていても気持ちが縦横無尽に錯綜する。