第2章 元カレ
ずっと食べたかった庶民的な煮込みハンバーグ、温玉のせのシーザーサラダ、野菜たっぷりコンソメスープ、デザートにはクリームブリュレ!
特段、凝った料理を作ったつもりはない。決して張り切ったわけでもない。でも、いざ出来上がってみて、それらが食卓に並ぶと、色合いも香りもかぐわしく、いかにも彼女が彼氏のために作りました、というようなご馳走になっている。
外での食事とは一味違う家庭的な雰囲気がそっと2人を包み込む。五条は一口、口をつけると「美味いね、これ」と思った以上に喜んで、あっという間にそれらを平らげた。
「おいしかった?」
「うまかったよ、未亜にこんな特技があったとはねぇ」
「やり始めたのここ最近だけどね、でも、悟の口にあってよかったー。庶民の味も悪くないでしょ?」
「うん、毎日でも食べたいねぇ、また作ってよ、あ、でも五条家の味も覚えてね」
毎日でも、って、五条家、って……。
恋人に言うようなセリフを口にしてみたり、安易に次の約束をしようとするのは五条の悪癖みたいなものである。最後の会話は無言で返すことにした。
食事が終わると五条はまるで、自分の家のようにくつろいだ。ソファにどかっと腰をおろし、ふぁぁと言って伸びをする。徐にカバンから本を取り出すと五条はそれを読み始めた。
「先生ともなると、いろいろ勉強しないといけなくてさ、大変だよ」
次々とページをめくっていく。
――特級呪霊の調査報告書はいつ作るんだろう?
くつろぎはじめた五条に声をかけようと思ったが、集中しているところには何となく声はかけづらい。
きっとキリのいいところまで読み終えてから、その話をするんだろう、邪魔しちゃいけない、と思い直し、五条の左横にそっと座る。手すりに肘をつきながら、静かにスマホを眺め始めた。
騒がしいゲストの喋り声や、演出で増されているであろう笑い声、ピンポンピンポーンという正解音が聞こえない無音の空間も悪くない、未亜はそう感じた。
お腹いっぱいで体内がほんのりポカポカしている。暑くもない、寒くもない、空調のいらない心地いい季節の心地いい時間帯。静かな空間の中、時々、ペラッと本のめくれる音がする。見ていたスマホの画面が、少しずつぼやけ出す……。