第2章 元カレ
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――2013年9月下旬――
2人が再会してから3ヶ月になろうとしていた。
未亜は五条に連れてこられた三ツ星フレンチレストランで仔牛のフィレ肉を堪能しながら、頭の中ではファミレスのビーフステーキハンバーグを思い浮かべていた。
もっと焼き鳥屋とかラーメン屋とか、普通に気楽に食べれるところでいいのに――。
一流の店に連れてきてもらって、こんな事を考えるのは、失礼だとわかっていても、カチャっとナイフの音を立てるのも憚られるこの雰囲気は、未亜にはいささか荷が重かった。話をする時も小声で喋るように気をつけなくてはならない。
「ねぇ、ねぇねぇ、悟、聞いてる? 次は私がお店予約するよ! こんな素敵なレストランじゃ、特級呪霊の話なんて出来ないじゃん」
「え? ひょっとして口にあわなかった? この後、出てくるデザートが美味いから、期待してて」
「違う違う、そうじゃない。美味しいよ、美味しいんだけど……」
「だけど?」
「私、庶民だから、一般庶民! 稼げる呪術師さんとは違う食生活してるの」
「その庶民のご飯って、何処に行ったら食えるの? え、まさか吉牛とか、ファミレスとか、そんなとこじゃないよね? 2人で食事するのにそれはないよね?」
今まさに、そのファミレスを頭に思い浮かべていたなんて、到底言い出せない雰囲気になった。っていうか、その恋人設定みたいなの何とかならないかなぁと未亜は思う。
そんな事とはつゆ知らずで、五条はどこ連れてってくれるの? と浮きあしだった声で、サングラスの奥を光らせこちらを見ている。
困ってしまった未亜は、思いついた事をそのまま口に出した。
「庶民の味、完全に忘れてるでしょ? 私が夜ご飯作ってあげる」
◇
後日、五条を自宅のマンションに呼んだ。