第3章 鯨
・
・
・
バブイーノ通り。
てくてくと手を繋ぎ歩みを進める。
なんてお店? って聞いても
なんだったっけな… って返答で。
何のお店? って聞いても
…その、それはなんつーか… あの… って返答で。
どこへ行こうとしてるのやら。
「…あ、ここっすね」
『え、ここ?』
「…ここでいいっすか?」
『え?ここでいいんですか?』
なんで今、私は聞かれたんだろう。
「姉に前連れてこられたんすけど」
『………』
「あの服の店ってここじゃないっすか?」
『…あ、うん。 ここだよ』
「…似合ってたんで 買いたいっす」
足らなくなはいけど、
いやでも、言葉足りなくないかい?
プレゼントしたいって言ってくれてるの?
「…なんつーかその 明日着て帰る服、俺が買ったのがいいなっつーか」
『………』
「良いっすか?」
良いっすか?、か。
『うん、嬉しい。ありがとう』
「…じゃ」
もう夏物はほとんどクリアランスに回ってるけど、
影山くんがこれどーっすかって言ったのはまだ定価のやつで。
普通にジャージー素材のとかかなぁって考えてたんだけど、
影山くんの中ではこう、お借りした黒×レースの印象が強かったのか
繊細な装飾の施されたのを持ってきた。
明日は移動が長いからな、こういう繊細なのは… って思うんだけど。
そもそも影山くんが私にこの場で選んでくれているっていう図がなんていうか、
新鮮というか 意外というか とにかく目が離せなくて……
店に入ってから今まで、
私は自分で服を見ることをせず
影山くんのことをずっと見てしまってる。
持ってきていたカメラのことなんてすっかり忘れて、
影山くんの姿や表情を目に、心に焼き付けた。
難しそうな顔しながら、
一生懸命女性もののワンピースを見てまわる影山くん。
かわいい。
そして、嬉しい。