第8章 空
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秋にリエーフに教えてもらった果樹園に行った時に、出会ったこと。
それから今日までどんな頻度で会っているかを端的に伝えた。
「それでそれで、どんな人?」
『…え、今話したじゃん』
「今のじゃわからないわよ〜、もっと、ほらあるでしょ?」
『ないよ、今ので伝わると思う』
信介さんが、信頼できる人で。
ちゃんと、している人だってこと。
「その、かちかちっとした約束が、りさ子を綺麗にしてるとは思えない」
『かちかちっと?』
「定期的に会う、その感じとかちゃんとした感じとか」
『なんでそうなるのよ』
「もっと心をかっさらって鷲掴みにされて弄ばれてって感じじゃないの!?」
『リエーフ何の願望それ』
「運命の人! …あーでもそういうわけでもないのかぁ」
『…勝手に落ち着いてるし』
「ギャップ萌えとかあるじゃない? それに、ギャップ萌えからのサイドバックみたいな?」
『アリサも意味がわからない』
「まーいいや! 恋をして綺麗になった、それで十分だな、姉ちゃん」
「そうねぇ、それで十分よねぇ、だってこんなに綺麗になってるんだもの」
「でもそれを言うとさ……」
そうしてまた2人はぴーちくぱーちくとおしゃべりを始める。
私のことなんてそっちのけで。
今は12月。
クリスマスの夜は信介さんが東京に来てくれてこっちで過ごす。
年末に私の実家へ一泊で帰った後、
兵庫の信介さんの家に一緒に行く。
年末年始は、北家で過ごすことになった。
私は空から見られている。
それから、信介さんにも。
空から見たら、私は私じゃなくなって地面と一つになってるんだろう。
でも信介さんに見られている私は、私でしかない。
繕っても繕っても私なのだ。
だから、繕うことをやめて。
手放せるものは手放して。
繕う必要のない私であろうと、心が身体が動き出す。
ーfin