第1章 チェンバロ
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翔陽くんはこの町で人気物のようで
ところどころで声をかけられてる。
いつもは違うんだろうけど今日の内容といえば、
「お、ショーヨー彼女か?」
「デート?」
「明日は試合ないんだしたまにはハメ外せよ。いいもんやろうか?」
もっぱらこの方向性。
その度翔陽くんは顔を赤らめ、必死に否定をする。
…かわいい
「ほんとすみません!あいつらみんなからかってんです」
『…からかってるの?私は見たままを言ってるだけかと』
「いやそんなことないです だだだって…!!」
『少なくとも私は、デートのつもりで楽しんでる。
そして君みたいな素敵な子と夕飯を食べれること、
いや、そもそもこうして出会えたことを心から喜んでる』
「なっ……」
『…でもそうだな、翔陽くんにとってそれが違うんだったら、
それはそうだね、ちゃんと否定するべきだと思う』
「ややややや…!」
『…笑』
「あだだだだ…!」
処理不可能…ってこと?
やばいな、この子面白い。
日本食レストランでランチ。
照り焼きチキン、惣菜盛り合わせ、味噌汁、ごはん、豚骨ラーメン。
翔陽くんが頼んだもの。
「カツ丼とラーメンとお好み焼きって、
炭水化物多すぎだよなー じゃあどうすっかなー」
などと言いながら、考えてた。
いろいろ、身体を作るものにはやっぱり考えがあるのね、とか。
私はお好み焼きとビール。
それから紅生姜を小皿にたっぷり。
酒のつまみに。
向かい合っていろんな話をした。
宮城出身、バレーボールの修行でビーチをしてる、
年が明けて3月に日本に帰ること、卵かけご飯が恋しい、
王様の影山… 大王様… ウシワカ… 木兎サン…
だんだん個人名が多くなってくる。
彼のことを織りなす大事な部分をシェアしてもらえてるみたいで、素直に嬉しく感じた。
今まで話してきた奴らから出てくる名前は
全部、大企業の子息、富豪の子息、権力者の子息…
結局自分の価値を上げるために使う道具としての登場ばかりだったのに。
目の前にいる彼は、
ただただ楽しそうに、悔しそうに、
その友人?ライバル?師匠?たちの話をする。