第3章 鯨
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メッシーナ、2本。
辛口の白ワインと重めの赤ワインを一本ずつ。
チーズいろいろ、生ハム、オリーブ、グリッシーニ、フォカッチャ、オリーブオイルと塩。
チョコレートとドライフルーツ、燻製ナッツ。
たっぷりのつまみを買う私を、
ちょっと引き気味で影山くんは見ていた。
ビール各1本とか、ワイン1、2杯くらいのつもりだったかな。とか思いながら。
「りさ子さん、こんな食えるんっすか」
『んー… 食えるかはわかんないけど、飲める』
「そっすか…」
『飲んだくれる前に、夕飯の材料も買っておこう。
影山くんはこれじゃ足りないでしょう?』
「そっすね…」
…引いてる? あーおもしろい。
冷静パスタとスープを作れるようにしておこう。
今日は暑い。
あぁ…ちょっとあれもこれも作りたくなっちゃうな。
キッチンに立つのは好きだ。
献立を立てるのも、その場にある食材でいろいろやっていくのも。
しかも食べてくれる人が、
こういう… 食べるものが身体を作り、その身体で何をしたいかって考えている人となると。
さらに、わくわくしてくる。
…カルパッチョも作ろっと。
ワイン屋であんなにたっぷり買い込んだのに、
スーパーでさらに食材を買おうとする私をやや不安げに見てる気がする。
食のこととなると止まらない… もうこれは仕方ないのだ。
「あのりさ子さん」
『…ん?』
買いすぎって言われるかな。
「スパゲティは家にあります、それより太いやつっすけど」
『…あ、でも冷たいのにしたくって』
「…そっすか」
『………』
「あの、りさ子さん」
『…?』
「明日、マーケット行きましょう」
『………』
「多分もっと、あれっす。 なんつーか… その顔すると思います」
『………』
その顔、とは。
わかんないけど、市場は大好きだ。
早く閉まるから今日は行けなかったけど、自炊するなら是非行きたい場所。
しなくてもいくくらいなんだから。
『うん、行く。 影山くんの予定とか、家で聞かせてね』
「ぅす」