第3章 鯨
影山くんは家から持ってきていたウォーターボトルの水をぐびぐびっと飲む。
サンドイッチの細かな残骸を流し込むように。
「…はぁー 旨かった」
私はまだ半分も食べてないのに。
早いなぁ。
「ここのでかいっすよね。全部食えますか?」
『ううん、持って帰ろうかな』
「俺食っていいなら食いますよ」
『ほんと? なんかいつも食べかけを申し訳ない。
こんなことなら最初から半分に切って貰えばよかったね』
「いや、いいんす。 なんかこれがいいって思います」
『…?』
「なんつーか、最初から決めてしまうんじゃなくて、
こう、その時のお互いのコンディションとか状況を擦り合わせていくっつーか」
…ん?今なんの話してたっけ? バレーの話?
お互いのコンディション。
私のお腹の空き具合、影山くんのそれ。
天候、食べる場所、食べてるもの… そういうことかな。
それは、確かに。
いつも半分食べてもらう、とかより私も好きかも。
あ、お前の食うつもりだったのになんだ、今日結構食えたんだな。
じゃあ、あそこでちょっとチーズボール買ってくるわ。
とか。
え!もうお腹いっぱいってそんなことあるの。
あーでも確かにお腹空きすぎたって言って色々頼んでたもんね。
じゃあ、これは持ち帰りにする。明日の朝にでも食べよっと。
とか。
そういう、彩りが愛おしい日々になりそう。
2人だけの小さな決まり事もそれでそれは愛おしいけど。
もっと大きく捉えた決まり事は、自由で、寛大というか。
『…うん、わかる気がする』
そうして影山くんはむしゃむしゃ。むしゃむしゃ。と
残りのパニーニを食べてくれた。
この青空パワーか、何か。
ビールはぐいぐいと進み、あと一口で飲み干せそう。
「それ一口貰ってもいいっすか?」
『あ、うん。いいけど… 飲み足りない感じ』
「…じゃあいいっす。飲んでください」
ニヤリ笑ってそう言ってみれば、
真面目な返事が返ってくる。
『他で飲む、ってこともできるかな〜』
「…買って帰って、バルコニーで飲みますか」
『お。いいね、それ。 決まり』
影山くんはコクリと頷き、ビールをくいっと飲み干した。