第3章 鯨
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氷水をいれたアイシングバッグを渡されおでこを冷やしてる。
影山くんはやっちまった感を目一杯出して、私の隣にいる。
…かわいい。
『影山くん、出かけるとこじゃなかった?』
「…あ、そっすね。ちょっとなんつーか。買い物に」
『…なんつーか 買い物』
「…や、りさ子さんもう来てくれねーんじゃねーかな、とか思ったら」
『………』
「家にいるのが、長く感じて」
仕事の方の撮影は予定通り終わったけど、
個人的に自分の作品の撮影が思いの外良い感じに進み、
何より楽しくって3日も余分に滞在してしまった。
…それにしても一体なんなんだろう、
この影山くんの発する言葉の持つ力は。
君にもう会えないかと思うと、いてもたってもいられなくて。
と言われたらどうだったろうか。
まぁ、どんな言葉もその人らしさが滲み出ていると深みや味があるものだけど。
影山くんのこの、不器用な言葉選びは私の心にまっすぐに届いてくる。
『………』
「でも、来てくれて良かったっす」
『…ん』
「ぶつけたとこ、どーっすか?」
私の手からアイシングを取り、
おでこにそっと触れる。
気持ちいい…
影山くんの指。温度。
気がついたら影山くんの服の首元を掴み、キスをしていた。
…私だって、会いたかった。
でも、仕事だってしっかりやりたい。
影山くんもきっと、今がシーズン中なら
ここまでこの感情に支配、されなかったんだろうな。
オフシーズン中も、
一つなぎの中の大事な点なんだと言わんばかりに、
自己管理を怠らない様子は垣間見えるけど、
それでもシーズン中よりは多少緩やかなんだろう。
キスはどんどんと深くなり、
会えなかった時間を埋めるように私たちは身体を重ねた。
ソファで、ベッドで、そしてまたバスルームで。
そしてまた、ベッドで。
言葉を交わすように、
想いを確かめるように。