第3章 鯨
「…明日の夜は空いてますか?」
『明日の夜は… 空いてない』
「いつまでこっちいるんすか」
『明後日まで。 一旦北の方へ行って、それからまた戻ってくる』
「…いつですか?」
『撮影の進み具合にもよるけど10日くらいしたらかな』
ミラノで2つのブランドと打ち合わせ、
後に一つはスタジオで、もう一つは湖の方へ行ってPR撮影。
それから普通に個人的な作品撮影。
「…で、戻ってきてからはどんな感じっすか」
『2週間、オフ』
「予定はあるんすか」
『特に。 トスカーナでのんびりしようかな、とか。 ナポリで食い倒れようかな、とか』
「…ローマにはいないんすか」
『…ローマに魅力的な用事ができればいる、かな』
「………」
…なーんて、何言ってんだか。
「…じゃあ、俺と過ごしてもらえませんか」
な、な、なんと直球。
いいな、回りくどくなくて、すきだ。
『…うん、じゃあそうする』
「…タクシー拾いますか? 通りまで一緒にいきます」
それから玄関で靴を履いてから、
扉に押しつけられ深いキスをした。
繊細で巧みな舌使いに身体が疼く。
今からホテルに帰るっていうのに。
「…すんません なんか 止まってられないっす」
『…ん。 でも止まった』
「…そっすね。 あ、鍵持っていってください。 あとこれ住所っす」
『………』
「帰ってきたらオフなら、ここ泊まってけますよね」
『うん、そうだけど』
「じゃあ、そういうことで… って通りまで送るんだった」
アパートを出て、タクシーを拾う。
乗り込む前にもう一度、影山くんは私を抱き寄せ、
熱く激しく でもとろけるように丁寧なキスをした。