第3章 鯨
仕事の時はいつもレペットのジャズシューズを履いてて。白いやつ。
ソールがラバーになってるから滑りにくいし、
履き心地もデザインもばっちりだから。
そして今、影山くんと買い物へといく道すがら、
あーいつもこの靴履いててよかったぁ。ってしみじみしてる。
前履いてたのがいい加減履き潰れたから少し前に新調したばかりだし。
綺麗な白のままなのがまた、あーよかったぁって。
だって黒いドレスに白いレザーシューズとか鉄板すぎる。
真っ赤な口紅と。
その場にあったものにしては上出来だなぁって。
「…手、繋ぎましょう」
深いブルーの半袖、黒いハーフパンツとレギンス。
黒いキャップ、黒とグレーのバイカラーのランニングシューズ。
どれもアシックス。
いつでもどこでも走り出せそうな格好。
ラフだけどルーズじゃない、
今の影山くんみたいな格好をした男性の隣を、
ワンピースを着て歩くのが実は、好きだったりする。
手なんて差し出されたら、そりゃ、とってしまう。
手は繋いだけど、特に会話をすることなくただただ歩いた。
影山くんはピザ屋の行き帰りでも同じだったけど、最初歩くペースが速い。
なので私は短い脚をとことこと動かして少し後ろを歩く感じだった。
でもふと、歩幅を、ペースを合わせてくれる。
帰りもそうだったし、今もそう。
いつものペースで歩いて、ふっと思い出して歩くペースを緩めてくれる。
私も私で全てを影山くんに合わせてもらうんではなくて、
影山くんが速度を落とすのに対して、私はいつもよりは速く歩いて。
何というか、2人の中間というか、2人のペースを見つける感じ。
そこに言葉はなくって。
お互いの気持ちいいを擦り合わせていく感じ。
私たちにしかわからない音で、情報交換をしてるみたいだ。
まるで鯨が海の中で歌を歌うみたいに。