第3章 鯨
「あの…これ似合うんじゃねーかなって思うんすけど」
影山くんが手にしてるのはマルジェラの黒いワンピース。
好きな、ブランドだ。
シンプルで形が綺麗で、且つ遊び心がある。
女性の服とか全然興味なさそうなのに、
ドンピシャなの持ってくるとか…
あ、ただお姉さんと私の趣味が合うのかもしれないな。
『いいのかな?これ結構良い服だと思うけど』
「いいっすよ。うちに置いて行ってるんで。本人も良いっつってましたし」
『…じゃあ、うん。 まだしばらく帰国しないから返せるし。遠慮なく。
選んでくれてありがとう、影山くん』
「………」
『………』
「あ、じゃあ俺、あっちいるんで」
『うん、着替えたらいくね』
「ぅす」
程よくフレアになった膝丈のワンピース。
袖や首周りなどトップ部分にはダイヤの形をしたレース。
すっごい好み。
これから夕飯の食材を買って、
家でカレー作ってを食べるだけなのに。
これからレストランでお食事、みたいな出立ちだ。
…その辺のちぐはぐさがまた、愛おしいというか。
影山くんの魅力だな。 どんな顔して選んでくれたんだろう。
髪を整えて、
この服にすっぴんはなぁと思って、
ポーチの中にあるものでささっと目元だけメイクして。
唇にルージュココの444番をのせる。
マルジェラの黒いドレスに
この発色良い赤リップをするのが大好き。
だから、ほんとに…
なんだろ。
デートに行く前の気分になっちゃうな。
『影山くん、お待たせ』
「あ、え… き…」
『…?』
あえき?
「き、綺麗っすね………」
『あっ え、うん、綺麗なドレス。ありがとう。
私ね、ここの服好きなんだ』
「…いや、綺麗なのはりさ子さんがっす」
『あ、え… きっ 綺麗… あ、ありがとう』
なんか今私も あえき って言ってた気がするけど……
影山くんの発する言葉は少ない分、濃度が濃ゆくて…
どきっとさせられるな。