第3章 鯨
「…どうなんすかね 昔そういう話、してる人がいました」
『…へぇ、どんな人?』
目がうろうろ。
そして眉を顰める。
「いや、その話題を話しかけてきたのはあのボゲで……」
『あの、ボゲ……』
「まぁなんか、生まれ変わりとかの話一回聞いたことあるなっつって、思い出しただけっす」
『ふーん』
「………」
『選べるとしたら? 選べるとしたら、何をする? 何になる?』
「いや、バレーすることしか考えられないっす」
『おー』
「その、今、生きてるうちに」
おおー、かっこいいねぇ 痺れる。
そうだね君には生まれ変わったら…とか全然、全然似合わない話だ。
「…なんか、あるんすか? 佐々木さんは」
2つ目の質問ゲット。
…そして影山くん、
今、君の右手が無意識にゆらゆらとなぞってるそれは、シャワーのボタンだよ。
角度的に… ばっちりかかると思うけど…
指示はしないけど、そんなことがあったらそれは、おもしろい。
『私はねーあるよ』
「………」
『生まれ変わったら、鯨になりたい』
一瞬、すごくすごい色っぽい目をした。
そしてレンズをじーっと見つめた。
ファインダー越しにその目と私の目が合って、体が疼いた。
カメラから手を離して、影山くんのところに行きたくなるほどに魅力的な瞬間。
衝動を抑え、シャッターを切る。
…過去形なのは、それが一瞬だったのは、
そのコンマ数秒後、彼がシャワーのボタンを押したから。
「つめてっ……」
焦ってる焦ってる。
なんでこうなったのかわかってないのかな。
あーダメダメそっち押したら…
ぎりぎり濡れない程度まで詰めていた距離をもう3歩後ろへ空ける
『…ぶっ 笑』
慌てて影山くんが押したボタンは壁の穴からシューって水が出てくるやつ
水圧でマッサージするやつ
上から、横から、水…もう湯気が立ってるからお湯か。
お湯を浴びてる影山くん。
湯気が邪魔だけど 湯気が色っぽい。
『…換気扇、10秒後に回して』
ファインダーを覗き込んだまま、スタッフに声をかける。