第3章 鯨
「オーナーが佐々木さんの作品?好きらしいです。
何点か所有してるとか言ってました」
『あら、なんてこと。 それはありがたい』
話すときは基本しっかり目を見て話すんだろう。
撮影前の挨拶でも彼は私の目をまっすぐ見て話した。
でも今、目を見ようと思っても、
目が合うのはカメラのレンズだから
どこ見れば良いんだ?って感じの顔になって、結果目が泳ぐ。
とても、かわいい。
じゃあこうして、ああして、と指示を出すのもそれはそれで楽しい。
なんていうか、プレイみたいで。
ほらほらできるでしょ、恥じらってる君もすごくかわいい。
けどもっと見せて、もっと全て、開いて。
あぁできたね、すごくいいよ。
みたいな。 そういう風にする時もある。
でも今は、別に私が主導権を握りたいわけじゃないから。
対等に、お互いに探りあっていけばいい。
『ローマでおすすめのお店ある?』
「…小さい店っすけど、ボンチっていうピザの店があって、そこ美味いっす」
『あ、知ってる切り売りの』
「そーっす。食ったことあります?」
初の質問ゲット。
『まだないや。結構イタリアには来てるんだけど。
食事はだれかと会う場になりがちで。
今回スケジュール余裕あるから行ってみるよ』
「………」
『普段は外食とかUberとか?自炊する?』
「…自炊しますね 食事の方はトレーナーに管理頼んでるんすけど。
まぁ自分でやります。 その、献立見て」
『へぇ、じゃあぜひ今度ポークカレー温玉乗せ、食べさせてもらいたいなぁ』
「温玉がなかなか手に入らないんで半熟卵っすけど、はい」
『あ、そっかぁ。イタリアの温泉とか行ったことあるー?』
「いや、ないっすね」
『えー!そっかー 温泉は好きじゃない?』
「…好き、だと思います。嫌いじゃないです」
『じゃあ是非、行ったらいいよ。
ロンバルディアにも結構あるけど、トスカーナの方が私はおすすめ』
「…トスカーナ」
あーそれいい。
首に手、当てるのすごいいい。
ていうかほんと指綺麗だな〜
爪の先まで完璧。